公認会計士として身につけるべき「職業的懐疑心」とは?【CPA'sVOICE】Vol.18
公認会計士として身につけるべきスキルと言われている職業的懐疑心とは、単に疑いの心を持って監査に向き合うことなのでしょうか?
今回は、公認会計士に職業的懐疑心が必要と言われる理由や職業的懐疑心の本質について考えていきます。
公認会計士に職業的懐疑心が必要な理由
職業的懐疑心とは、読んで字のごとく、職業的専門家としての懐疑心を持つという意味で使われています。
一般企業では、あまりなじみのない言葉ですが、企業の監査を行う立場にある公認会計士にとっては、身につけるべきスキルとして知られています。
では、なぜ公認会計士には職業的懐疑心が必要なのでしょうか?
企業の正当性を評価するため
そもそも会計監査とは、企業の不正や間違いを見つけることが目的ではなく、正当性を評価するために行うものです。
もちろん、監査を行う公認会計士も「不正を見つけてやろう!」というつもりで監査に入るのではなく、「正しくあってほしい」という想いで監査に臨んでいます。
一方で、正当性を評価するためには、不正がないことを証明しなければいけません。
そのためには、「本当にこれって正しいの?」という疑問を持つことが大切。
公認会計士とは、企業の正当性を証明したり、時には正当な道へと導いたりする役割を担っているからこそ、職業的懐疑心が必要と言われているのです。
何もかもを疑うということではない
企業の正当性を評価するためには職業的懐疑心が必要ですが、だからと言って「何もかもを疑いなさい!」ということではありません。
監査を行う立場として重要なことは、職業的懐疑心を持つと同時に余計な先入観を持たないということ。
あくまでも中立的な立場として、ニュートラルな観点で監査を行うことが大切です。
余計な先入観を取り除いたうえで監査を行い、その中で生まれた疑問に対しては、疑問が解消されるまでとことん追求するのが、職業的懐疑心を持つことの本質なのです。
職業的懐疑心を持ちながらも信頼関係を築くには
公認会計士は、職業的懐疑心を持ちながら監査を行うだけに、時にはクライアントである企業との関係性に難しさを感じることもあるかもしれません。
例えば、上場企業の監査であれば、批判的機能を持って監査を行うことの必要性をクライアントも理解しているため、職業的懐疑心を持って監査に取り組みやすいものです。
一方で、IPO監査の場合、企業の成長に向けた指導的機能も求められます。
発展途上の企業の中には、監査の役割や位置づけを十分に理解していないケースも多く、時には「サポートしてくれるはずなのに何で疑うんだ!」と思われてしまうこともあるのです。
そうしたクライアントと、きちんと信頼関係を築くためにも、監査の目的や立ち位置をきちんと説明し、理解してもらうことが大切です。
職業的懐疑心とは、「疑うため」のものではなく、正当性を証明したり、成長を支援したりするために必要であることを正しく理解してもらうことで、クライアントとの信頼関係を築くことができるはずです。
▼上場企業の監査とIPO監査の違いについてはコチラの記事で詳しく解説しています。
IPO監査って何をするの?公認会計士の役割は?【CPA'sVOICE】Vol.4
客観的に判断するためにも常識が求められる
職業的懐疑心というのは監査論特有の言葉ですが、その意味するところは平たく言うと、意味なく穿った見方をすることなく職業専門家としての疑いを持つ精神をいいます。
様々な企業に対して職業的懐疑心を持って監査を行うためには、「常識と照らしておかしいところはないだろうか?」という視点で物事をみることが重要になります。その判断をするための前提として、「何が常識か?」を身につけておくことが必要となるわけです。
財務諸表に対して納得感を持って正しく判断するためにも、経済動向や市場動向などの一般的な常識はもちろん、業界特有の常識を持ち合わせていることが大切です。
常識を正しく身につけていることで、先入観にとらわれずにニュートラルな観点で監査を行うことができるのです。
そのため、監査法人によっては、監査を行う業界を制限し、知識の乏しい特殊な業界の監査については監査をお断りするというケースもあります。
大手法人の場合は、業界ごとに部門を分けて、各部門が業界特有のナレッジを蓄積して監査対応するといった方針を取っています。
広く社会の常識を身につけてしっかりと理解を深めることが、正しく疑問を持つということにも繋がるのです。
まとめ
今回は、監査における職業的懐疑心について解説しました。
職業的懐疑心とは、何もかもを疑うということではなく、あくまでも正当性を証明するため必要な観点です。
職業的懐疑心を持つためにも、余計な固定概念を持たず、ニュートラルな観点で監査に臨むことが大切!
そのうえで疑問が出た際には、職業的懐疑心を持って疑問が解消されるまで追求すれば良いのです。
最初から疑いを持って監査を行うのではなく、「正しくあってほしい」という気持ちで向き合うことで、クライアントとの信頼関係を築くことができるのではないでしょうか。