グロース市場の上場維持基準の見直しによるIPOへの影響【CPA'sVOICE】公認会計士のつぶやきVol.29

東証のグロース市場において、上場維持の基準が大幅に引き上げられることが決定しています。これにより、IPOや既存の上場企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。今回は、グロース市場の上場維持基準の見直しに着目し、具体的な内容や企業への影響などについて解説します。

グロース市場の上場維持基準の見直しとは

東京証券取引所(以下:東証)では、グロース市場がより高い成長を目指す企業が集う市場となることを目的とし、市場区分の見直しなど、様々な取り組みを進めています。
中でも上場維持基準は大きく見直され、大幅に基準が引き上げられます。

グロース市場の上場維持基準見直しの具体的な概要は以下の通りです。

新基準:上場5年経過後、時価総額100億円以上
現行 :上場10年経過後、時価総額40億円
適用時期:2030年3月1日以降、最初に迎える事業年度の末日より適用

これらの基準に満たない場合、1年間の改善期間が与えられます。
改善期間を経て基準に達さなかった場合、指定期間を経て原則として上場が廃止されます。

参考:グロース市場の上場維持基準の見直し等について

IPOへの影響は?

上場維持基準が引き上げられることを受け、グロース市場における新規上場企業数は大幅に減少すると予想されています。
実際に、グロース市場におけるIPO社数は2024年上期が34社だったのに対し、2025年上期では18社と約半数程に減少しています。

また、この新基準は、新規上場企業だけでなく既存の上場企業にも適用されます。
2025年10月現在、600社以上の企業がグロース市場において上場していますが、今回の新基準により、400社以上に影響を及ぼす可能性があると言われています。

企業成長に向けた新たな選択肢

東証グロース市場が上場基準を引き上げる主な目的は、PBR(株価純資産倍率)を高め、世界の証券取引所と肩を並べる市場を作りあげることにあると言われています。
上場基準を引き上げることで、より高い成長が見込める企業のみが集う市場を目指しているのです。
一方で、新基準を満たすことができなかったとしても成長が見込める企業は数多く存在します。
東証グロース市場の新基準が適用され、上場を目指すことが難しくなってしまった企業は、企業成長に向けてどのような打開策を考えたらよいのでしょうか。

TOKYO PRO Marketへの上場を目指す

東証グロース市場の基準が引き上げられることを受け、打開策としてTOKYO PRO Marketへの上場を目指す企業が増えています。

TOKYO PRO Marketは国内外のプロ投資家向けの市場で、上場基準が柔軟に設定されているため一般市場に比較すると短期間での上場を目指しやすいと言われています。
2025年10月現在での上場企業数は152社と決して多くはありませんが、年々上場企業数が増えている市場でもあります。

ただし、TOKYO PRO Marketは一般株主が株式購入できる市場ではないため、企業の側からすると、資金調達目的の観点からは十分な効果が得られる市場ではありません。
このため、中には、TOKYO PRO Marketでの上場をひとつのステップと考え、ゆくゆくは一般市場での上場を目指すという企業もあるようです。

地方市場での上場を目指す

TOKYO PRO Marketへの上場を目指す企業が増えていると同時に、地方市場での上場も選択肢として挙げられます。

現在国内では、東証(東京証券取引所)以外にも、名古屋、福岡、札幌にそれぞれ証券取引所があり、有価証券の取引が行われています。
東証グロース市場の基準引き上げを受けて、これらの地方市場での上場を目指す企業も増えつつあります。
中でも、名証(名古屋証券取引所)における全銘柄の新規上場企業数は、2023年に9社だったのに対し2024年には20社、2025年にはさらに増えることが想定されています。

参考:名古屋証券取引所|新規上場会社一覧

上場以外の選択肢を検討する

これまでは、IPOにより企業成長を目指す流れが一般的でしたが、IPOのハードルが高くなれば、上場以外の方法で企業成長を目指す企業も増えるでしょう。

例えば、合併や買収など、いわゆるM&Aによる企業成長を目指す方法です。
自らの手で立ち上げた企業を売却することにマイナスイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、アメリカなどでは一般的であり、M&Aにより企業を再建したり成長を実現したりした例は数多く存在します。
また、資金調達の面でプラスになることも多々あります。

上場のハードルが高くなることで、今後は、最初から自力での企業成長を目指すのではなく、他の企業の力を借りながら、将来的に一般上場を目指すという企業も増えるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、2030年以降に適用される東証グロース市場の上場基準見直しによる市場への影響について解説しました。
東証グロース市場の上場基準が引き上げられることにより、今後新規上場が難しくなったり、上場廃止を迫られたりする企業が続出するといった可能性も考えらます。
また、これにより、他の市場での上場や上場以外の方法など、企業成長における選択肢も多様化することでしょう。
監査法人としても、IPOや上場企業の監査といった場面だけでなく、こうした変化に柔軟に対応した、これまで以上に様々な局面での監査が求められる時代になるのではないでしょうか。

公認会計士のつぶやき PICK UP

公認会計士のつぶやき PICK UP