監査人交代の理由と背景【CPA'sVOICE】公認会計士のつぶやきVol.28

様々なクライアントの監査を行う中で、時に企業から監査法人(会計監査人)の交代(変更)を告げられることもあります。監査人の交代には様々な理由や背景があり、近年では、定期的に交代することで、継続的な監査による慣れあいのリスクの回避や新たな観点による監査に期待する声も聞かれます。今回は、監査人交代の理由や背景について紹介します。

監査人交代の理由

監査人を交代する主な理由としては、コスト面の不一致や監査法人との関係性の悪化などが挙げられます。

監査報酬の不一致

監査人交代の大きな理由のひとつとして、監査報酬の見直しによるコスト面の不一致が挙げられます。
継続して監査を行う場合でも、監査法人は同じ報酬額で監査を続けるとは限りません。
例えば、企業規模の拡大やサービスラインの増加、環境変化による監査リスクの増大といった企業側の要因のだけでなく、監査法人側での人件費アップによりコストの見直しが必要となった場合などにも、報酬の増額を要請することがあります。
企業の監査に対する予算と監査法人が提示した報酬額に不一致が生じて解決出来なければ、監査人が交代となるといったケースは珍しいことではありません。

企業と監査法人の意見の相違や関係性の悪化

企業と監査法人との見解の相違や関係性の悪化も監査人交代の大きな理由のひとつとして挙げられます。
例えば、監査プロセスにおいて、企業と監査法人との信頼関係に影響を及ぼすような会計上の判断の相違が生じた場合や、会社と監査法人との現場でのコミュニケーションの齟齬が生じたりした場合には、企業側が監査人の交代を検討することがありえます。

監査法人から監査を辞退するケースもある

企業側から監査人の交代を検討することがある一方で、監査法人側から継続更新や監査依頼の引き受けを断るケースもあります。

例えば、企業の不祥事が発覚した場合、信頼関係の悪化や監査法人側のリスク回避を理由に監査の継続を辞任することもあります。

いずれにせよ監査人の交代が生じる場合には、前任監査人と後任監査人との間で、監査人交代の手続きが必要となります。
その際には、前任の監査人から交代理由や背景、過去の監査の状況、監査リスクなどの説明がなされ、後任監査人はその情報を踏まえた上で監査を受嘱するか否かの判断を行うことになります。

コストと工数の不一致によるジレンマ

先述の通り、監査人交代の大きな理由のひとつとして、コスト面の不一致が挙げられますが、一般的に監査報酬は、リスクの増加や監査業務の複雑化による工数の増大に比例してコストが高まる傾向にあります。
そのため、管理体制や経営面が悪化している企業ほど、監査における検討項目が多くなり、どうしても監査報酬が高くなってしまうものです。
しかし、経営状態が安定していない企業にとって、高額な監査報酬を捻出することが難しく、合意に至らないケースも想定されます。

コスト面の不一致による監査人交代には、このような背景があるのです。

まとめ

監査人交代には様々な理由や背景がありますが、企業にとっても監査法人にとっても健全かつ納得できる状態であるためには、互いの信頼性を高めることが大切です。
その一環として、監査人交代の際には、交代の理由や背景、これまでの経緯などが前任監査人から後任監査人に説明することが求められています。
十分な情報が前任監査人から伝えられることで、後任監査人が監査リスクを適切に把握して、効率的な監査の実施が可能となることが期待されます。

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